いまTMをしているセレブたち

ニューヨークタイムズ英国のコメディアン、ラッセル・ブランドは、これまで突飛な戯(おど)けた仕草を売り物にしてきた。イギリスのMTVの番組の司会役をしていた時には、オサマ・ビン・ラディンの格好をして登場したこともある。MTVネットワークの音楽賞授賞式では、ブリトニー・スピアーズを「女キリスト」と呼んでひんしゅくをかった。彼は78歳の俳優のボイスメールに下品なメッセージを残したことが問題になってBBCから解雇された。この悪ふざけには、当時の英国の首相も公然と非難せずにはいられなかった。

ブランド氏(35歳)が超越瞑想のなかに見いだした感情の慰めについて熱っぽく真剣に語るのは、少なくとも彼には似合わない感じがする。2010年12月に行われたTM(超越瞑想)のチャリティーイベントで、彼はステージに現れて、自分の心の傷を癒すのにTMがどんなに助けになったかを説明した。彼の新妻でポップシンガーのケイティ・ペリーは舞台裏に控えていた。

「超越瞑想は、薬物依存からの回復、私生活、結婚、仕事など、僕にとっては信じられないほど価値のあるものです。」

TMは1日2回、それぞれ15分から20分ほど座って目を閉じて、マントラと呼ばれる簡単な言葉を心のなかで繰り返すテクニックだ。そうすると、超越意識という状態にアクセスできるのだという。「先日、瞑想していたら、何百万ドルもの価値があるのではと思えるようなアイディアが浮かんできました。」

ブランド氏は、問題を抱えた学生、退役軍人、ホームレス、受刑者などにTMを無料で提供しているデヴィッド・リンチ財団のイベントの司会を務めた。TMは、1958年に精神的な指導者マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーが教え始めた瞑想法であり、精力的な映画監督であるリンチ氏は、TMが最初に流行した60年代からの熱心な実践者である。60年代と言えば、フランク・シナトラと離婚したミア・ファローが、ビートルズと一緒にインドのリシケシにあったマハリシのアシュラムを訪れた頃である。

ジョージ・ルーカスも、そのころにTMを始めた。「スターウォーズ」のヨーダはマハリシをモデルにしたと噂されている。トークショーの司会者マーブ・グリフィンは、テニス仲間で俳優のクリント・イーストウッドから勧められてTMを始めた。1975年には、マハリシを自分のショーのゲストに迎えたこともよく知られている。

その後、TMを勧めるセレブの数やTMを始める人数は減っていったが、アメリカの超越瞑想の団体によると、ここ3年ほど前からまた盛り返してきて、TMを始める人が以前の3倍ぐらいに増えているという。

ハートフォードのトリニティ・カレッジの女子スクワッシュ部は、昨年から練習の後に一緒にTMを行っている。ホームレスを支援している「ドウ基金」は、コンピュータのスキルや職業訓練とともにTMをホームレスたちに提供するようになった。巨大ヘッジファンドであるブリッジウォーターのCEOレイ・ダリオ氏は、ずいぶん前から「自分の会社の成功は、私が毎日TMを行っているからだ」と語っている。

超越瞑想の団体によると、TMを習う人が増えているのは、TMがストレスの軽減や高血圧の改善に役立つという最近の研究と受講料の値下げのためだという。成人の受講料は60年代には75ドルだったのが、2007年には2,500ドルまで上昇し、2008年には不況のために1,500ドルに下がった。

2005年に始まったリンチ財団がブランド氏のようなセレブの協力を仰いでいるのも、TM受講者増大の大きな要因になっている。セレブたちは記者からの質問に答えて、ダイエットやライフスタイルについて話すことが多い。そのついでにTMのことも話してくれるのだ。

外科医のメフメト・オズ医師も瞑想者であり、寝室の隅に置いてあるアームチェアで瞑想しているという。彼はリンチ監督のイベントで次のように話している。

「海の表面の波を想像してください。私はボートに乗っていて、波やボートに入ってくる海水を何とか防ごうとしていますが、実は、私がするべきことは、海の表面の下にある深い静寂に向かって飛び込むことなのです。」

歌手のモービーもゲストの一人だった。彼はタクシーに乗っているときに瞑想している。

「超越瞑想のおかげで、興奮した状態を冷静に扱えるようになりました。興奮は心の一時的な状態なので、それを本気で受けとめる必要がなくなりました。」

TMのおかげで、一年以上前に飲酒を止められたという。

「以前は、TMはヒッピーたちが行っていた怪しげなテクニックだと思っていました。しかし、デヴィッド・リンチもやっていると聞いて、興味を持ったのです。」
 
イベントの前日の午後に、リンチ氏(65歳)は、妻のエミリー・リンチ(32歳)と手を取り合って美術館に到着し、職員に案内されて地下の緑の部屋に入った。リンチ氏は、マンガの登場人物のように、もう何十年も同じ服装をしている。アイロンのかかった白いシャツに、ゆったりとした黒いスーツ、それに生垣のような髪の毛。リンチ氏は生焼けの卵サラダ・サンドイッチを頬ばりながら、TMを始めた経緯(いきさつ)について話してくれた。

「最初は、瞑想には少しも興味がありませんでした。」

モンタナ州ミズーラ出身の彼のものうげな話し方は、ロサンゼルスに何年暮らしても直らなかったようだ。

「瞑想は一時的な流行にすぎないと思っていました。みんながナッツとレーズンを食べていたときも、自分も同じものを食べたいとは思いませんでした。」
      
リンチ氏は、70年代の初め、4人の妻のうちの最初の妻であったペギーとの関係がうまくいかなくなったときに、妹のマーサに説得されてTMを始めた。

「私は個人的な怒りをいっぱい抱えていて、それを彼女にぶつけていたのです。私は弱い人間だったと思います。自信がありませんでした。内面が幸福ではありませんでした。TMを始めて2週間経ったときに、妻が私のところへやって来て言いました。『あなたの怒りはどこへいったの?』私は内側で自由と幸福が膨らんできたのを感じていました。それは母なる自然の微笑みのようでした。世界が次第によくなっているように見えました。私たちの内側に無限の愛の海があるように感じました。ですから、もう争いを続けることはできませんでした。」

「アーティストはよく、『少しの苦しみや怒りがあったほうがいい』と言います。しかし、割れるような頭痛や下痢や吐き気があったら、仕事を楽しめませんし、仕事が捗りません。女性を得るために苦しむというのはロマンチックかもしれませんが、しかし、苦しみは創造性の敵です。」

TMの説明を続けているうちに、リンチ氏は次第に熱が入ってきた。

「TMは、内側にある宝庫の扉を開ける鍵のようなものです。そこで体験が起こり、脳全体が同調します。それは今日の生活ではなかなか得られない、無限の知性、創造性、至福、愛、活力、平和の体験です。そして、緊張、不安、トラウマ的なストレス、悲しみ、うつ、憎しみ、怒り、復習、恐怖、こうしたものはすべて消えてしまいます。人生が次第によくなっていきます。人々がそうした体験をすれば、人間というのは素晴らしいものだとわかるでしょう。」

その体験を分かち合おうというのが、リンチ財団の目的である。12月のイベントで集められたお金は、学校や刑務所などのTM受講費に当てられる予定だ。

この10年間に、TMの団体とは関係ないロサンゼルスのセダース・サイナイ医療センターの研究者たちは、TMによって冠状動脈性心臓病を患う患者たちの高血圧、肥満、糖尿病が軽減することを発見した。また、同じくTMとは関係のないアメリカン大学の研究者たちが、TMは脳機能や認知力の向上に効果があることを発見した。

原文・ニューヨーク・タイムズ (2011年3月20日)
この記事は抄訳です。